[木のデザイン] 招待作家展

all about wood we think re-style in art and design

2010年9月25日(土)-11月24日(水)

日本の文化は、世界唯一の「木の文明」といわれます。 その木の建築は、日本独自の生活文化を生み、森林の更新循環のかなめでした。
[木のデザイン]プロジェクトは、木の文化--環境や資源、生活や社会と人との関係を、芸術が結んで新たにし、展覧会を通じて発信していきます。
[木のデザイン]プロジェクトでは、2011年秋、長野県産落葉松(からまつ)を素材とした公募展を企画しています。
2010年秋、そのプレビュー[木のデザイン]招待作家展を開催します。

長野県産落葉松を素材とした[木のデザイン]

建築家・東京藝術大学教授 黒川哲郎

日本の文明は,世界唯一の「木の文明」といわれます.日本の木の建築は,土器に蛇の形代(かたしろ)を縄で標(しる)したアニミズムの時代,カミの依代(よりしろ)の樹を丸太の掘立て柱に遷(うつ)し,柱と貫穴に差した梁先とを縄で番(つが)えて誕生します.照葉樹林に覆われ,氾濫を繰返す沖積層に水田を開発し,古墳を造営した時代,日本書紀に,エコロジー神話――スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治する治水,イナダヒメの妻籠を『八重垣』と詠う建築,杉と樟を船に,檜を宮殿に,槇を棺にと定める用材,子のイソタケルノミコトらが木種を蒔き施す植林――が記されます.

奈良時代,渡来技術の頭貫(かしらぬき)と地貫(じぬき),長押(なげし)によって掘立てから解放され,鑓鉋(やりがんな)で加工された丸柱の軸組は,平安時代,巻き,畳み,重ねられる舗設(しつらえ=室礼=建具・家具・調度)と一対のスケルトン&インフィルをなし,禅が伝来の鎌倉時代に角柱へ変容し,襖や明り障子の引き戸文化を育みます.室町時代,内法貫(うちのりぬき)と足固め貫(あしがためぬき)は,透きや間の感覚に充ちた書院や数寄屋を創出し,桃山時代,独創的な半剛接の耐震仕口,差鴨居(さしがもい)に到り,柱立ちの民家は,融通無碍な生活とともに,多雪地域へも欅や松を用いて広まり,日本の木の文化の成熟が進みます.
杉檜は,裂き易く,活用は紀元前4〜5世紀に遡り,伐採は沖積層から山へ及びます.檜は,乾燥させ易く強いものの成長が遅いことから,宮殿,社寺,邸宅などの材として,杉は,腐りにくく成長が早いことから,船,杭や矢板などの土木,倉や住宅などの建築,桶樽などの生活・生産用具へ幅広く用いられます.
江戸中期には世界に先駆けて適地適木,適材適所のエコロジカルな育成林業へ転換し,明治時代,杉は,電柱や学校建設に用いられるなど近代化を支え,官民挙げて治水を兼ねた造林がなされます.一方,縄文以来の「軸組」の木の建築は,戦前に,半剛接の構造実験・理論化・計算式化が試みられます. ところが戦後の復興期,杉は,住宅や杭・足場・電柱への大量需要と,檜に劣らぬ高付加価値が期待され,膨大な造林がなされ,前後して1950年制定の建築基準法へ,「枠組壁(ツーバイフォー)」に類似の「軸組壁」というべき構法が,「在来」と呼ばれ登場します.1960〜70年代には,木材が,供給不足から輸入自由化され,エネルギー転換と住宅非木質化が進み,山とともに水源を涵養し,「木の文明」を担ってきた里の薪炭林が姿を消し,地球規模の森林破壊と化石資源の大量消費が始まります.

1980〜90年代,「在来」工法は大工後継者不足や低価格化からプレカット化やパネル化が図られ,第2次輸入自由化のなか,国産材は労働多投の高価格ゆえ需要を奪われてしまいます.のみならず,杉は,乾燥させ難く,強度の個体差,元口と末口の径差,曲がりを,檜は,虫害を生じ,放置され始めます.他方,細かな間取りが前提の「在来」工法は,阪神淡路大震災以後,重心と剛心の近接が,また長寿命化からストック&フローの両立が求められ,「壁」の集約,強化が図られますが,余力に乏しく,中層住宅や学校校舎などの木造化は困難と考えられ始めています.日本がもう一度木の建築を復活させるためには,国産材と整合する構法の新たな技術開発が必須です.そしてそれを「木の文明」の復活へ発展させるためには,木のスケルトンと対をなす木のインフィルが不可欠です.

取付け・取外しや運搬,収納のし易い舗設は,コンパクトカルチャーと呼ばれる日本独自の生活文化を描いてきましたが,脇田和と新制作展を共にした建築家・吉村順三は,『解体家具』を出品し,近代日本の生活を提案します.その後も折畳み椅子,フロアスタンドを好んでデザインしたのは,それらが座布団や行燈のように,場を自由にし,心地良くするからです. 長野県の落葉松(からまつ)は,江戸時代,山から自生の苗木を採り,戦前には移出や輸出へ発展します.杉と同様に成長が早く,戦後,坑木などの需要を期待し植林が拡大されますが,旋回変形や脂(やに)に苦しみ,現在,集成材や合板など間伐材活用や,乾燥や滲出防止の技術が模索されています.適切に除・間伐され大径材の時代を迎えれば,秋材と春材の硬軟が半ばし,構造材,仕上材,建具・家具・調度用材として強く,軽く,温かく,バイオマスエネルギーとしてもエコロジカルで,長野県産落葉松を素材とした[木のデザイン]プロジェクトは,木の文化復活の嚆矢(こうし)となることが期待されます.

開催概要

会期 2010年9月25日(土)-11月24日(水) 開館時間 午前10時〜午後5時
会期中は無休(展示替え、イベント等による臨時休館あり)
主催 脇田美術館 [木のデザイン]プロジェクト実行委員会
協力 長野県林務部
後援 長野県木材青壮年団体連合会
(この事業は(社)国土緑化推進機構[緑の募金]の助成をうけて実施しています)
入館料 一般/1,000円 大高生/600円 中学生以下 / 無料 (団体20名以上100円引き)
アクセス ・ 電車 長野新幹線・しなの鉄道「軽井沢駅」下車 旧軽井沢銀座方面へ徒歩10分
・ 車 上信越道「碓氷軽井沢インター」から国道18号線を旧軽井沢方面へ約10km
会場 〒389-0102 長野県北佐久郡軽井沢町旧道1570-4
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電話番号 0267-42-2639